LYNDEN DAVID HALL/MEDICINE 4 MY PAIN


メディシン・4・マイ・ペイン

メディシン・4・マイ・ペイン

90年代後半、「UKからディアンジェロへの回答」と称された才能あるアーティスト、リンデン・デヴィッド・ホールがガンのため亡くなりました。
ショックです…。先日のジェイ・ディー急逝もショックでしたが、今回のリンデンの訃報は、97年のデビュー以来彼の作品を聴き続けてきたファンの一人としては残念で堪りません。ここ数年は悪性リンパ腫を患い闘病を続けていましたが、昨年3rdアルバム『In Between Jobs』で見事復活を果たした矢先でした。享年31歳、僕よりも若いのに、早すぎます。
彼の遺した3枚のアルバムは、そのどれもが優れた作品ですが、一番思い入れ深いのは1st『Medicine 4 My Pain』です。とかくディアンジェロとの近似性ばかりが強調されてきた作品ですが、同世代の才能あるアーティストが、時代のクールを突き詰め共振した結果、と個人的には捉えています。タイトなベース&ドラムス、くすぐるようなワウ・ギター、スペースをたっぷりと活かした抑制したファンクネスを生むグルーヴ。「Do I Qualify?」、「Sexy Cinderella」、「There Goes My Sanity」あたりは、ディアンジェロが『Brown Sugar』でやらんとしていたことを、親しみやすいメロディに変換して、より分かりやすく提示してみせています。
メランコリックなほんわかミディアム「Crescent Moon」や「The Jimmy Lee Story」はディアンジェロには絶対にない資質を感じるし、骨太ファンキーなベースラインがうねるグルーヴを生む「Livin' The Lie」は、UKの大先輩、オマーを見習ったかのよう。冒頭の808の響きが「Sexual Healing」みたいな「100 Heart Attacks」も、タイトルからしてリンデンならではの洒落っ気というか茶目っ気を感じます。カッチリしたビートの上に澄み切った空気と青臭い情感を乗せる岡村靖幸っぽい(?)ミディアム・ソウル「Yellow In Blue」、幽玄ビートのスロウ・グルーヴ「I Wish I Knew」など、全く捨て曲なし、どころか傑作ばかりのアルバムです。
より幅広い音楽性とふくよかなソウル・マインドを見せた2000年の2nd『The Other Side』、ようやく彼を苦しめたディアンジェロの呪縛を振り払った昨年の復活作『In Between Jobs』も良い作品です。今日は彼の作品を聴いて故人の冥福を祈ることにします。
R.I.P.