LA.CONNECTION/NOW APPEARING


今日もキャミオ関連作です。このLAコネクションというバンドは、ルイジアナ州バトンルージュを拠点としているようで、LAとは全く関係なさそうです。では何故LA? LAとは、おそらくLarry Blackmonの頭のLAから取っているんでしょう。ようするに、これは完全にキャミオの傀儡バンドということです。
裏ジャケを見ると、メンバーは8人クレジットされています。このアルバムがリリースされた82年というと、キャミオがメンバーを12人から5人へと一気に減らし構造改革を断行した『Alligator Woman』をリリースした年です。この『Now Appearing』にはそのキャミオのメンバー5人と、プラス旧メンバーもこぞって参加しており、キャミオ・ファミリーの総力戦といった様相を呈しています。このバンドのリード・ボーカルのロジャー・ハリスは、キャミオ関連の作品によく名前を見かける人で、聴けば、あ〜、この声って思います。
で、出てくる音はもちろんキャミオそのもの、切れ味鋭い剃刀ファンクで、バンドの個性などあったもんじゃないんですが、これがキャミオ本隊も顔負けの傑作ファンク・アルバムになってるんです。いや、もしかしたらキャミオよりいいかも。「Burn Me Up」は、淡々としたリズムにキャミオ「Soul Army」風の女声コーラス、ハンド・クラップにホイッスルまで動員したクールなヘヴィー・ファンク。凄味さえ感じさせる曲で、これは只事じゃないです。
「Shake It」はタイトル通り、思いっきり腰を揺さぶられるナスティー・ファンク。ファンキー極まりないギター・カッティング、”シェ〜イク、シェキッ!”っというあばずれ女声コーラスに骨抜きにされちゃいます。速射砲ホーンズも派手に盛り上げて、どこをどう切ってもキャミオ印という金太郎飴状態です。
「Jealousy」もキャミオ・マナーのファンクですが、シンセのフレーズには密かにミネアポリスの臭いも嗅ぎ取れます。そういえば、プリンスの傀儡バンドとしてスタートしたザ・タイムがデビューしたのもこの頃じゃなかったでしょうか。「Get It Up」はミドル・テンポのリズムに勇壮なホーンが重なるファンク。ここでも期待どおり「ゲ〜ッ、ゲリラッ」とコーラスが煽ってくれます。
キャミオと言えばもうひとつのお楽しみ、スウィートなスロー・バラッドがありますが、ここでもしっかりやってくれてます。「Promise Me」はオルガンの音の響きが夜の帳を下ろし、永遠の愛を囁く絶品スロー。「I'll Find Away」は蕩けそうなほどスウィート。ロジャー・ハリスのボーカルを例のチョコレート色のコーラスが包んで、口に含んだ瞬間に溶けてしまいそうな甘〜い名バラッドです。
このバンドは結局アルバム1枚で終わったようです。この後のキャミオが、ラリー曰く「ブラック・ロック路線」を標榜し、実験を重ねながら新しいサウンドを作り上げて行ったことを考えると、この『Now Appearing』はラリーの純なソウル/ファンク・マナーを余すところなく堪能できる貴重な作品と言えそうです。

CAMEO/SHE'S STRANGE

She's Strange

She's Strange

82年の傑作『Alligator Woman』から、それまでの大所帯ファンク・バンドから一気に人員整理を断行し、少数精鋭テクノ・ファンクへと移行したキャミオですが、この84年作『She's Strange』時点の正式メンバーはわずか4名となっています。大勢でワサワサとやってた『Cameosis』や『Feel Me』あたりが好きな僕としては、この人数の少なさはチョット寂しい気もします。。。もちろん、サエキけんぞう似のあのメガネの人は既に居ません(笑)。
とは言え、テクノロジーの侵食と正面から向き合い、時代との折り合いをつけるべく試行錯誤を続けた80年代中期のキャミオ、と言うかラリー・ブラックモンの才覚たるや凄いものがあったわけで、他のファンク・バンドが時代の荒波に飲まれて次々に沈没していくのを尻目に、ラリーは船の積荷(不用になったメンバー)を海に放り投げながらサヴァイヴし続けました。なんかこんな風に書くとラリーって酷いヤツみたいですが(笑)、いやホントはどんな人か知らないんですが、やはり新しい音をうまく消化/昇華し自分のモノにすることができたという点が、他の凡百のファンク・バンドとの違いということでしょうか。で、「Word Up!」ではついに時代のフロントに立ったわけです。
『She's Strange』は、ラリーの音楽的な試行錯誤と実験精神、そしてリストラに怯える他の3人のメンバーの表情を捉えたドキュメント(笑)です。何と言っても白眉はタイトル曲「She's Strange」。クールでスタイリュッシュ、それでいてゴツくて淫靡な幽玄ファンク。ビシバシきまる打ち込みのビート、ヘタウマなラップ、いつものチョコレート色のコーラスがキャミオ・マナーにしっかりと染め上げてくれます。
ミディアム〜スローの「Love You Anyway」もカッコいい曲です。途中、ジョージ・ベンソンばりにギターとユニゾンスキャットするあたりなんか、失禁寸前の気持ち良さに身を委ねつつ、思わず一緒に口ずさんでしまいます。
「Groove With You」はヒップなミッド・ファンク。ハンド・クラップがバシッとキマり、都会的な雰囲気のあるアーバン・グルーヴがなかなか気持ちよいです。「Hangin' Downtown」は陰影のあるスロー・バラッド。寒々とした空気と切ない情感が胸を締めつけます。グループ・ホーム「Supa Star」ネタです。
けたたましいシンセが耳障りなファンク・ロック「Talkin' Out The Side Of Your Neck」や、意味不明のレゲエ風「Tribute To Bob Marley」なんて曲があるせいで、アルバムとしての完成度はイマイチと言わざる得ませんが、避けては通れないような名曲もまたゴロゴロしている、何とも罪つくりなアルバムですね。

VAN HUNT/ON THE JUNGLE FLOOR

On the Jungle Floor

On the Jungle Floor

ヴァン・ハント、期待の2ndアルバム。
2年前のデビュー作では、スライを筆頭にカーティスやアイズレーあたりを参照したと思しきヴィンテージなソウル/ファンク・サウンドにロックの粉を塗した、アシッドな酩酊感がモワモワと漂うようなアルバムでした。幼少期に父親からプリンスの2ndアルバム『愛のペガサス』を手渡され、「お前もこういう風になれ」と言われたという凄まじい(?)エピソードを持つハントですが、ソウルやファンクとロックの配合の微妙なサジ加減とか、ナルシスティックな佇まいも含めて、プリンスの影響が色濃い人です。
1stの赤っぽいサイケなジャケとは対照的な、ブルーを基調にしたスタイリッシュなアートワークが印象的なこの2ndアルバム、前作のアシッドな酩酊感は抑えつつ、ザクザクとしたギターが刻みつける、よりエッジの立ったロックと、スライ〜プリンス流儀のファンクが拮抗する作品です。プロデュースをシェリル・クロウなどで知られている(らしい)ビル・ボトレルに任せているのも(ハントはコ・プロデュース)、前作よりもロック的なアプローチが目立つ所以ではあります。便宜上、[R&B]にカテゴライズしてますが、メイン・ストリームのR&Bとは全く非なるモノであり、下手すれば「オルタナ」の一言で片付けられてしまいそうですが、個人的にはこういうはみ出し者の音楽はかなり好みだったりします。
1曲目の「If I Take You Home(Upon…)」はギター・サウンドがモロ殿下なファンク・ロック、続く2曲目「Hot Stage Lights」は『Parade』『Sign O The Times』に入っていてもおかしくないようなキャッチー&ストレンジなファンクで、この冒頭2曲は特にプリンス臭濃厚です。スライ『暴動』を参照したプリンス「The Ballad Of Dorothy Parker」「If I Was Your Girlfriend」あたりをモチーフにしたかのような、重く澱んだベースがグルーヴを泡立てる「Being A Girl」からも、ハントの出自が窺い知れるようです。
また、ラサーン・パターソン『Love In Stereo』『After Hours』でのプロデュース・ワークで見せた、ファンク・オリエンティッドなアプローチも健在です。アコギの刻みとダルなホーンズがファンキーな「Suspicion(She Knows Me Too Well)」、沈み込むベースがこれまた『暴動』っぽいスロー・ファンク「Priest Or Police」、シリアスな曲調と苦悩混じりのファルセットがカーティス「Little Child Running Wild」を彷彿とさせる(やや大袈裟)「Character」など、ソウル・ファンク好きなら素直に反応してしまうハズです。
勢いで突っ走る退廃的なロックンロール「Ride,Ride,Ride」、ロック・バラード調のニッカ・コスタとの共演曲「Mean Sleep」、アルバム終盤の3曲、ポップな「The Thrill Of This Love」「Hole In My Heart」「The Night Is Young」もかなり好きです。
これは間違いなく今年のベスト・アルバムのひとつでしょう。どうやら今後、ディアンジェロ不在の穴はハントが埋めてくれることになりそうです。

GIL SCOTT-HERON & BRIAN JACKSON/WINTER IN AMERICA

Winter in America (Reis)

Winter in America (Reis)

実はこのアルバム、以前はあまり好きではありませんでした。何かすごく地味で、『Pieces Of A Man』や『It's Your World』といったジャズ・ファンクの名盤と比較すると、どうしても物足りなさを感じてしまってました。当ブログで以前彼らの作品をいくつか取り上げたときも、このアルバムにはほとんど言及していません。(http://d.hatena.ne.jp/stonegroove/20050829
しかしこの1ヶ月というもの、僕の精神状態の低位不安定さの為か、JBなどの真っ黒なファンクを聴く心境にはなれず、代わりに生真面目なジャズ作品であるこのアルバムがヘヴィー・ローテンションでした。真夜中にそっと耳に入ってくるメロウに潤んだエレピの音が、疲れたココロとカラダにスーっと沁みこんでくるんです。
74年にストラタ・イーストから発表されたこのアルバム、いわゆるファンクな要素は全く感じられません。クラブ方面からも人気の「The Bottle」にしても、淡々と刻まれるリズムはいたってクールで、ファンクとはかなり距離があります。アルバム全体を通して、深く沈静したムードが支配していて、その暗闇のなかで柔らかい鍵盤やフルートがそっと光沢を放っています。アリスタ移籍後の次作から顕著になってくるラテン・フィーリングも、ここではまだ見受けられません。
どの曲も似通った印象のため、それぞれの曲にコメントをつけるのも難しいのですが、「Peace Go With You,Brother」、「Back Home」、「Song For Bobby Smith」、「Your Daddy Loves You」あたりが特に好きです。
TVTからの再発CDには、更に4曲のボートラがついています。うち3曲がライブ音源で81-82年頃の録音なのですが、いずれもアルバム本編と共通するしっとりとした雰囲気で、これがかなり良い出来です。アルバムと同名タイトルでありながら、何故か本作オリジナルには収録されず次作『First Minutes Of A New Day』で初出となった「Winter In America」は、スタジオ録音よりも遥かに良い感じです。”ワンワンコ”でおなじみ「The Bottle/Guan Guanco」は、『It's Your World』収録の音源とはかなり異なる雰囲気で、リズムはずっと奥に引っ込めて、ベースとコンガだけが前に迫り出した演奏ですが、これはこれでまたカッコいいと思います。

PRINCE/3121

3121

3121

前作『Musicology』はオーセンティックなファンク、ソウル&ロックが清々しい快作でしたが、この『3121』は80年代のプリンスの作風を現代的なビートで蘇らせたような感じで、黄金期のプリンスを知るファンの溜飲を下げるに十分に足る傑作です。20年来のプリンス・ファンの僕も大満足です。
いきなり、超ヘヴィーなドラムスが牽引する歪んだグルーヴのタイトル曲「3121」で仰け反ってしまいます。猥雑で禍々しい雰囲気、カミールみたいなボーカルも入ってるあたり『Sign O The Times』期を彷彿とさせる(「Hot Thing」あたりが近いかな)、凄まじい傑作ファンクです。
話題のシングル曲「Black Sweat」、あの「Kiss」を思い出さずにはいられない曲調、トグロ巻くシンセ音、シンプルながらも骨の髄から衝き動かされるような、殿下のエロ路線のファンクとしては久々の傑作です。
『Controversy』『1999』『Purple Rain』あたりの、毒々しい雰囲気が横溢するナスティーなファンクも収録されています。分厚いシンセやギターのカッティングがファンキーな、タイトルからしてあの頃っぽい「Lolita」や、いかにも80'sなシンセ・フレーズに、やたらキャッチーなサビの「Love」といった曲は、「Let's Work」や「Lady Cab Driver」なんかを思い起こさせ、ミネアポリス・ファンクなんて言う言葉すら頭をよぎります。ストレートにロックしちゃう「Fury」も、紫のバイクに跨って疾走してた、あの頃の殿下の臭いが濃厚です。
朴訥としたオルガンの響きが南部風情をそこはかとなく漂わせるソウル・バラッド「Satisfied」、現代的なR&Bを殿下ならではのレシピで調理した和めるミディアム「Beautiful,Loved and Blessed」あたりも良い曲です。
で、ラストはシーラ・E、メイシオ、キャンディーを迎えての、お決まりの大団円ファンク「Get On The Boat」でシメ。先行シングルの「Te Amo Corazon」(この曲はそんなに好きじゃありません)同様、ちょいラテンな感じの曲ですが、この手のファンクを殿下がやれば、まず間違いなく傑作になっちゃいます。
このアルバム、ビルボードのアルバム・チャート初登場1位を記録したということで、内容とセールス面両方でプリンス完全復活を強く印象付ける作品となりそうです。

OMAR/SING(IF YOU WANT IT)


シング(イフ・ユー・ウォント・イット)

シング(イフ・ユー・ウォント・イット)

オマー、5年ぶりの6thアルバム。90年初のデビュー以来約15年経ちますが、あまりにも偉大な1stアルバム(http://d.hatena.ne.jp/stonegroove/20050924)を超える作品がなく(一般的には評価の分かれる3rd『For Pleasure』は個人的にはかなり好きですが)、”未完の大器”といった印象の人ですが、この6thアルバムでオマーはついに彼のキャリアのピークに到達したのではないでしょうか。この『Sing』こそ、オマー15年目の最高傑作です。
このアルバムでは、かつてのオマーらしい癖のある粘っこいグルーヴ、奇妙に引っかかるサウンドが蘇っています。特に『For Pleasure』っぽいエッジの効いた硬いビートのファンクが印象的です。タイトにカッチリと乾いたビートを刻む、クール&ナスティなファンク「Kiss It Right」、硬質なビートを打ちつけ、ムーグが絡みつくファンク「Your Mess」、アフリカっぽいパーカッションがトライバルな空気を醸す「It's So」、地下深くを蠢くようなグルーヴにフルートが怪しく絡む、コモン参加のスロー・ファンク「Gimme Some」、『For Pleasure』収録のレオン・ウェアとの共作曲「Cant't Get Nowhere」みたいな、冷たい空気を震わせるようにチープなシンセが妖しくヌメるミッド・ファンク「Lay It Down」、Whole Darn Family「Seven Minites Of Funk」みたいなモゴモゴしたビートのアンジー・ストーン参加曲「Stylin'」など、ファンク曲の充実ぶりが目を見張ります。
冒頭を飾る「Sing」は、ファルセットも使ってしつこくこねくりまわすヴォーカルが、いかにもオマーなほっこりミディアム。独特なムーグ使いで、蛇が地を這うようにグルーヴがグニョグニョと忍び寄る「Be A Man」、ボッサ調の軽めの「Get It Together」、ジャム・セッションぽいリラックスしたムードのジャジーな「Ghana Emotion」なども良い出来です。
そして今作最大のトピック、御大スティービー参加の「Feeling You」。オマー+スティービーがこの音になるとは、ちょっと予想外。なんかフツーにフュージョンっぽいトラックに意表を突かれました。爽快なグルーヴがなかなか良いです。
ディアンジェロより5年早くデビューしながら、90年代後半以降はディアンジェロの後塵を拝してきたオマーですが、ここにきて失速するライバルを尻目に一歩前に出た、そんな印象の今度のアルバム。ディアンジェロがこのアルバムを聴いたら(多分聴いてるはず)、きっと悔しがるに違いありません。プリンスの新譜、もうすぐリリースされるヴァン・ハントの2ndと共に、今年のベスト・アルバム候補の最右翼だと思います。

約1ヶ月ぶりの更新です。
この間、仕事の目の廻るような忙しさとプライベートのゴタゴタ(?)で心身ともに疲れ果てて、夜中にパソコンに向かう気力も時間も無く、音楽聴くのもままならない状態でした。
ようやく仕事もプライベートも少し落ちついてきたところで、何事もなかったかのように自己満レビュー再開です。