OMAR/SING(IF YOU WANT IT)


シング(イフ・ユー・ウォント・イット)

シング(イフ・ユー・ウォント・イット)

オマー、5年ぶりの6thアルバム。90年初のデビュー以来約15年経ちますが、あまりにも偉大な1stアルバム(http://d.hatena.ne.jp/stonegroove/20050924)を超える作品がなく(一般的には評価の分かれる3rd『For Pleasure』は個人的にはかなり好きですが)、”未完の大器”といった印象の人ですが、この6thアルバムでオマーはついに彼のキャリアのピークに到達したのではないでしょうか。この『Sing』こそ、オマー15年目の最高傑作です。
このアルバムでは、かつてのオマーらしい癖のある粘っこいグルーヴ、奇妙に引っかかるサウンドが蘇っています。特に『For Pleasure』っぽいエッジの効いた硬いビートのファンクが印象的です。タイトにカッチリと乾いたビートを刻む、クール&ナスティなファンク「Kiss It Right」、硬質なビートを打ちつけ、ムーグが絡みつくファンク「Your Mess」、アフリカっぽいパーカッションがトライバルな空気を醸す「It's So」、地下深くを蠢くようなグルーヴにフルートが怪しく絡む、コモン参加のスロー・ファンク「Gimme Some」、『For Pleasure』収録のレオン・ウェアとの共作曲「Cant't Get Nowhere」みたいな、冷たい空気を震わせるようにチープなシンセが妖しくヌメるミッド・ファンク「Lay It Down」、Whole Darn Family「Seven Minites Of Funk」みたいなモゴモゴしたビートのアンジー・ストーン参加曲「Stylin'」など、ファンク曲の充実ぶりが目を見張ります。
冒頭を飾る「Sing」は、ファルセットも使ってしつこくこねくりまわすヴォーカルが、いかにもオマーなほっこりミディアム。独特なムーグ使いで、蛇が地を這うようにグルーヴがグニョグニョと忍び寄る「Be A Man」、ボッサ調の軽めの「Get It Together」、ジャム・セッションぽいリラックスしたムードのジャジーな「Ghana Emotion」なども良い出来です。
そして今作最大のトピック、御大スティービー参加の「Feeling You」。オマー+スティービーがこの音になるとは、ちょっと予想外。なんかフツーにフュージョンっぽいトラックに意表を突かれました。爽快なグルーヴがなかなか良いです。
ディアンジェロより5年早くデビューしながら、90年代後半以降はディアンジェロの後塵を拝してきたオマーですが、ここにきて失速するライバルを尻目に一歩前に出た、そんな印象の今度のアルバム。ディアンジェロがこのアルバムを聴いたら(多分聴いてるはず)、きっと悔しがるに違いありません。プリンスの新譜、もうすぐリリースされるヴァン・ハントの2ndと共に、今年のベスト・アルバム候補の最右翼だと思います。