VAN HUNT/ON THE JUNGLE FLOOR

On the Jungle Floor

On the Jungle Floor

ヴァン・ハント、期待の2ndアルバム。
2年前のデビュー作では、スライを筆頭にカーティスやアイズレーあたりを参照したと思しきヴィンテージなソウル/ファンク・サウンドにロックの粉を塗した、アシッドな酩酊感がモワモワと漂うようなアルバムでした。幼少期に父親からプリンスの2ndアルバム『愛のペガサス』を手渡され、「お前もこういう風になれ」と言われたという凄まじい(?)エピソードを持つハントですが、ソウルやファンクとロックの配合の微妙なサジ加減とか、ナルシスティックな佇まいも含めて、プリンスの影響が色濃い人です。
1stの赤っぽいサイケなジャケとは対照的な、ブルーを基調にしたスタイリッシュなアートワークが印象的なこの2ndアルバム、前作のアシッドな酩酊感は抑えつつ、ザクザクとしたギターが刻みつける、よりエッジの立ったロックと、スライ〜プリンス流儀のファンクが拮抗する作品です。プロデュースをシェリル・クロウなどで知られている(らしい)ビル・ボトレルに任せているのも(ハントはコ・プロデュース)、前作よりもロック的なアプローチが目立つ所以ではあります。便宜上、[R&B]にカテゴライズしてますが、メイン・ストリームのR&Bとは全く非なるモノであり、下手すれば「オルタナ」の一言で片付けられてしまいそうですが、個人的にはこういうはみ出し者の音楽はかなり好みだったりします。
1曲目の「If I Take You Home(Upon…)」はギター・サウンドがモロ殿下なファンク・ロック、続く2曲目「Hot Stage Lights」は『Parade』『Sign O The Times』に入っていてもおかしくないようなキャッチー&ストレンジなファンクで、この冒頭2曲は特にプリンス臭濃厚です。スライ『暴動』を参照したプリンス「The Ballad Of Dorothy Parker」「If I Was Your Girlfriend」あたりをモチーフにしたかのような、重く澱んだベースがグルーヴを泡立てる「Being A Girl」からも、ハントの出自が窺い知れるようです。
また、ラサーン・パターソン『Love In Stereo』『After Hours』でのプロデュース・ワークで見せた、ファンク・オリエンティッドなアプローチも健在です。アコギの刻みとダルなホーンズがファンキーな「Suspicion(She Knows Me Too Well)」、沈み込むベースがこれまた『暴動』っぽいスロー・ファンク「Priest Or Police」、シリアスな曲調と苦悩混じりのファルセットがカーティス「Little Child Running Wild」を彷彿とさせる(やや大袈裟)「Character」など、ソウル・ファンク好きなら素直に反応してしまうハズです。
勢いで突っ走る退廃的なロックンロール「Ride,Ride,Ride」、ロック・バラード調のニッカ・コスタとの共演曲「Mean Sleep」、アルバム終盤の3曲、ポップな「The Thrill Of This Love」「Hole In My Heart」「The Night Is Young」もかなり好きです。
これは間違いなく今年のベスト・アルバムのひとつでしょう。どうやら今後、ディアンジェロ不在の穴はハントが埋めてくれることになりそうです。